⑦ 藤田嗣治の猫「闘争」の話

「 藤田嗣治」氏に関連して⑦

藤田嗣治の猫「闘争」の話

藤田嗣治の猫は有名で、沢山の作品が残されその猫を集めた本まで出版されている。犬派・猫派という分け方があるが、当然嗣治は猫派であろう。犬派は犬を人間と同列に、猫派は動物(野生)として見ていると思える。すなわち、猫派は、人間に媚びない所が好きなので、その点最近は犬のような猫が多くなっているようでちょっと不満だ(私も本格的な猫派である。ついでながら宮澤賢治も猫が好きで、作品の中に一寸悪役風な「山猫」をたびたび登場させている)。(も一つついでに、絵の世界では何故だか犬の絵はあまり売れない。)

話を戻すが、藤田の猫は、可愛い猫が多いがちゃんと野性味を持っている。有名な「闘争」と題した群猫《写真①》は、他の作品と一寸違い、鋭い本当に嫌な顔をした猫達だ。最近のある評論家はその「迫力」に大きな評価すら与えている。

父の話では(画室であったかは覚えていないが)、藤田がこの作品の取っ組み合いをしている猫達を指差し「これが誰々これが誰々」と、同業の洋画家の名前を挙げたという。(後で、どの猫が誰だったかきちんと聞いておけばよかったと思ったが、多分父もちゃんとは覚えていなかっただろう。)画壇内部での嫌な場面に遭遇し、我慢出来ず、その光景を猫の姿を借りて描いた作品で、父に名指しで解説までしたのだから、余程腹の中が煮えくり返っていたのだろうと想像出来る。

藤田の猫の絵を調べてみると(藤田嗣治画文集 猫の本 発行講談社)、問題の「猫(闘争)」は1940年制作で、父が聞いたとする時代に一致する。前のページに「喧嘩〈1937〉」《写真②③》「猫と蜂〈1938〉」《写真④⑤》「魚と三匹の猫〈1932〉」《写真⑥⑦⑧⑨》が掲載されており、闘争の中に登場する猫に酷似している。とすると以前スケッチしてあった猫を沢山組み合わせ群像にしたと考えられる。「闘争」自身も、以前制作した人間の群像の作品「闘争」を基に、猫に置き換えたと思っても良いのかもしれない。

ちなみに、「闘争」の猫群の中にきっと藤田もいる筈ではと思って見たら、右上に皆と一寸はずれた所に困ったような顔をした猫が一匹いた《写真⑩⑪》。贔屓目かもしれないが、その猫だけ普通の「藤田の猫」に見えた。印刷の具合でか、ちょび髭をしている様に見えたのは私の思い込みのせいだろうか。

写真(左上から① ②③④⑤⑥ ⑦⑧⑨ ⑩⑪)

 

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