⑤ 藤田嗣治の戦争画の謎
「藤田嗣治」氏に関連して⑤
藤田嗣治の戦争画の謎
手元に「大東亜戦争陸軍作戦記録画集」(陸軍美術協会発行)というB5判20Pの小冊子がある。表紙が藤田嗣治の「サイパン島同胞臣節を全うす」であるからかなり末期の発行で、編集は明らかに戦意高揚をねらったものだが、すでに印刷時状況はかなり悪化している。その8ページに父の『玉城挺身斬込五勇士奮闘』が載っているのでそれで我が家に残っていたのだろう。(ちなみに他の掲載作家は、佐藤敬・吉岡堅二・福沢一郎・鶴田吾郎・宮本三郎/向井潤吉・田中佐一郎・川端竜子・栗原信・中村研一・伊原宇三郎・岩田専太郎・橋本八百二・中山巍・高沢圭一・鬼頭鍋三郎・和田三造・鈴木誠・小川原脩・高野三三男である。)
6ページ目に藤田嗣治の「薫空挺隊敵陣に強行着陸奮戦す」が載っている。この作品は突撃隊の一人が米兵と思われる敵を刀でばっさりと切っているかなり過激な絵で、父は私にこんな話をしてくれた。藤田は父に、切られた兵隊の飛んだヘルメット部分を指し、「頭の部分は絵の具を被せて見えなくしてあるが、30年後には絵の具が剥がれて頭が現れるように細工した」と、一寸茶目っ気に笑ったという。当初は、首が飛んだ過激な絵を描いたものの、『敗戦後の事』を意識してこのアイデアを思いついたのであろうか。
子供の頃に聞いた話なので、本当の話なのか、そんな事出来るものなのか長い間の疑問だった。この古い白黒の印刷を見る限りでは、確かにヘルメットだけが飛んでいるように見えるし、最近の印刷物を見ると頭の部分があるように見えた。この冊子と本物をじっくりと比較して子供の頃からの疑問を解決したいと思っている。
(こんな事を書くと、軍部に加担した戦争責任論に安易に使われてしまうかもしれないと一寸不安になる。)
《写真は(右上)「大東亜戦争 陸軍作戦記録画集」陸軍美術協会発行 の表紙見開き。(上左)6・7Pの作品写真。(下左)問題部分のアップ写真。(下右)修復後「現在」のアップ写真。中央左がヘルメット部分。》